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2013.12.01  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

3段階の成長戦略

──そのための取り組みとして、例えばどんなことを行っているのですか?

これまで、ランサーズを世の中に浸透させるため3つのステップを考え、実践してきました。第1のステップは、クラウドソーシング市場を大きくすること。具体的にはランサーズに登録するクライアントとフリーランサーの数と全体の取り引き額を増加させること。第2のステップは、フリーランサーがランサーズだけで生活できるような状態を作ること。第1ステップと第2ステップはまだまだこれから増やしていく必要はありますが、ある程度は達成できました。

現在もっとも力を入れているのは、第3のステップである「教育」です。ランサーズで暮らせるようになったフリーランサーの方々に講師になってもらって、どうやってクライアントやリピーターを増やしていったのか、どんなふうに仕事をしているのか、ランサーズの上手な使い方など、フリーランサーとして自活するノウハウを多くのフリーランサーにレクチャーする「47都道府県おじゃまします! フリーランス交流会」を開催しているんです。いわば全国フリーランス行脚イベントですね。毎回平均50人ほどが参加してけっこう盛況なんです。

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2013年11月に盛岡で行われた交流会の様子。ランサーズをうまく使っている個人事業主の話に多くの参加者が熱心に耳を傾けた

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広報担当の山口氏による「マル秘ランサーズ活用術」。多くのユーザーにとって気になる「どうすれば提案が通りやすくなるのか?」を詳しく解説

もう1つは、報酬の単価を上げることも重要です。大きな企業とアライアンスを組むときは報酬の単価を極力上げようと交渉しています。とはいえやっぱり企業はインターネット経由の仕事に不安を感じるので、ランサーズ株式会社がいったん大きな案件を丸ごと受けて、それを切り分けて個人のランサーさんに渡して、完了までプロジェクトマネジメントしていくという方式を取ることもあります。


──ランサーズを利用している人は海外にもいるのですか?

はい。海外のユーザーさんはだいたい2%くらいです。ただ海外の方がアクティブ率が高いです。例えばハワイやスペインに住んで、ランサーズ上の仕事で生活していけるだけのお金を得ている人もいます。また、ご主人の給料は生活費に使い、ランサーズからのギャラを貯金に回している主婦もいます。例えばスペインは日本との時差がちょうど12時間なので、日本側から夜に仕事をお願いすると朝にはメールで届くので使い勝手がいいという企業さんの声もよく聞きますね。


──そうすると為替の差を利用した働き方、例えば物価の安い東南アジアの国に住んで、ランサーズを通して日本の企業の仕事をすれば少ない労働時間でかなり豊かな暮らしができそうですね。まさに時間と場所にとらわれない働き方が国内だけじゃなくて世界で可能という。

そうですね。その可能性は十分にあります。

自社の社員も"仕事は自由に楽しく"

──ランサーズのユーザーだけではなく、ランサーズ内部の社員の働き方に関してはいかがでしょう。時間と場所にとらわれない働き方を内部に対しても実践しているのでしょうか。

笑顔あふれる和気藹々とした職場

ランサーズを支えてくれているスタッフにも楽しく自由に働いてほしいと思っていますし、そのための制度もいろいろ作っています。例えば出勤に関しては全社員の3分の1を占めるユーザーのサポート担当は在宅ワークです。エンジニア職はフレックス制ですし、広報やビジネス開発担当はほぼ自由であまり社内にいません。

本社も今年(2013年)6月までは鎌倉にあったんですよ。それこそ時間と場所にとらわれない働き方を自ら実践するために。ただ、会社の規模が大きくなるにつれて鎌倉に土地と建物を確保することが難しくなったのと、逆に鎌倉にこだわるのは地方という場所にとらわれているんじゃないかと思い、渋谷に移転しました。


──福利厚生面ではユニークな取り組みをされていますか?

例えば遅くまで仕事をする人には夕食代を支給したり、違う部署の人と食事をしたらその食事代を支給しています。あとは毎月末には締め会を開催し、頑張った人を表彰しています。その後は会社負担の飲み会へ。あとは誕生日休暇を設定しています。また職住接近は楽だし何かとメリットが大きいので会社の近くに住む人には距離に応じて家賃の一部を補助しています。

締め会の模様

半年に一度の合宿

また、半年に1回、全社員参加の1泊2日の合宿を開催しています。バスを1台貸し切ってみんなで温泉旅館に行くんです。ちなみにその日は僕が添乗員になります(笑)。どんなことをやるかというと、僕が現在の会社の経営課題を伝え、皆さんに2日間だけ社長になって課題の解決方法を考えてもらうんです。「時間と場所にとらわれない働き方をつくる」という我々のビションに対して2日だけでいいから楽しみながら向き合ってみてくださいと。

合宿の模様。モットーは「楽しく真剣に」

ランサーズはまだできて5年のベンチャー企業で社員の平均年齢も30代前半と若いので、チームワークを強めることと、一人ひとりに経営者の視点で考える癖をつけてもらうことが狙いです。その効果は少しずつですが出てきていると感じています。合宿が終わったらアンケートを取るのですが、だいたい90%以上の満足度なので、社員のみなさんにも満足してもらえているのかなと思っています。

秋好陽介(あきよし ようすけ)
1981年大阪府生まれ。ランサーズ株式会社代表取締役社長。

20歳のときに初めてPCを購入し、自力でホームページを制作。以降、広告収入や受託開発などインターネット関連ビジネスで個人事業主として年間数千万円の収入を得る。2005年、ニフティ株式会社に入社。Webプロデューサーとして複数のインターネットサービスの企画運営を担当。2008年4月ニフティを退社し、起業。同年12月に「時間と場所にとらわれない新しい働き方」の創出を目指して国内初となるクラウドソーシングサービス「ランサーズ」を立ち上げる。現在では同種のサービスがいくつか存在するが他の追随を許さないほどの圧倒的シェアを誇る。2013年1月、日本テレワーク協会「第13回テレワーク推進賞」の会長賞受賞。

初出日:2013.12.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの