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2013.11.15  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

第1回日英馬搬シンポジウムを開催

第1回日英馬搬シンポジウムの模様(撮影:村上昭浩)

──それはすごい収穫ですね。

収穫はほかにもあります。日本に帰ってからもダグさんとの交流は続き、今年(2013年)9月26日に衆議院議員会館で「第1回日英馬搬シンポジウム」を開催できました。それまでダグさんは日本にはあまり興味がなかったのですが、僕たち日本の馬搬関係者がイギリスに行って馬搬を通じて交流したことで日本に対する興味関心が生まれ、日本に行ってみたいと思ってくれたんです。ダグさんは馬搬の啓蒙活動をしているので、せっかく日本に行くのならただの観光ではなく馬搬に関する意義のあることがしたいと言ってくれました。それは馬搬を多くの林業関係者はじめいろいろな人に知ってもらうPRにもなるし、林野庁など政府機関へのアピールにもなるなど、こちらにとってもすごく大きなメリットがあるのでシンポジウムを開催しようということになったんです。オカムラさんにも後援していただき、当日は120名ほどの参加者や多くのメディアにも来てもらって大盛況でした。

このシンポジウムにはダグさんの他に、日本で長年森作りに取り組んできたC.W.ニコルさんにも出席していただけました。

馬搬を通じてニコルさんとも交流

C.W.ニコルさんと

──ニコルさんともお知り合いだったんですか?

いえ。イギリスに視察に行く前に、20年かけて日本の森を見事に再生した英国出身のニコルさんにひとことご挨拶しようと、ドキドキしながら電話したところ、これまでなんのつながりもなかったにもかかわらず、ぜひ会いましょうとおっしゃってくださってアファンの森に会いに行ったんです。

そのときに馬搬のことや我々の取り組みをお話すると、ニコルさんは長年自然保護活動に取り組んでいるのでとても興味をもって、アファンの森でも馬搬をやりたいと言ってくださって。その後も馬搬を応援していただけるようになったんです。

その後イギリスに行ってダグさんと日英の馬搬振興会のつながりができて、帰国後ニコルさんにもダグさんを紹介して両者の交流が生まれました。それでシンポジウムへの参加をお願いしたところ、快諾していただいたというわけです。シンポジウムの後、ニコルさんとダグさんが遠野の森に来てくださって遠野の馬搬関係者と交流を深めました。

このように馬搬のおかげでなかなか会えない人と交流が持てたり、海外で活動したり、さまざまな経験をすることで世界が広がりました。また、これまでは文化なんて考えたこともなかったのですが、馬搬文化の再発展・継承活動にも携われたことで見えてきたものもたくさんあります。ですので今となっては、建築じゃなくて馬搬の道を選んで本当によかったと思っています。建築の世界にはすぐれた建築家や設計士やデザイナーがたくさんいますが、遠野馬搬振興会を立ち上げることができたのはたぶん僕しかいなかったと思いますし。しかし今は、やる気のある一般の人にも馬搬と馬搬振興の活動をしていただくのも僕の使命・役割だと思っています。今後もっといろいろなネットワークを作りたいですね。そうすれば今までなかったことを生み出せるんじゃないかと思っています。

馬と働き、生きていける社会を

──何もないところから道を切り拓いてきた行動力に感服します。今後の目標は?

この遠野で「馬搬で暮らす」ことをサスティナブルなライフスタイルとして確立し、環境イノベーションを起こすことが目標です。人の生活に馬が組み込まれて、経済活動として持続的に稼働すればすごく楽しいと思うんですよ。そのために先程もお話しましたが、馬搬のブランディングに注力しているわけです。馬搬は意義や誇りがちゃんと感じられて、しかも楽しめる仕事です。そうすると里山が生かされて、新しい生き方が生まれます。それを目指しているんです。


──馬搬を普及させるために具体的にやりたいことはありますか?

一般の人にも馬搬をより身近な存在として感じてもらうために、遠野に誰でも馬搬を体験できる「馬搬センター」を作りたいですね。本格的に馬搬を学びたい人には、森でまず1日か2日、馬をコントロールして実際に丸太を引っ張ってみるなどの短期の体験ができ、そこから徐々に難易度の高い長期のトレーニングができる「馬搬学校」ような施設を作りたいです。なんでもそうですが、こういった学ぶ場がないとなかなか普及しないと思うんですよね。

岩間敬(いわま たかし)
1978年岩手県生まれ。馬搬馬方/遠野馬搬振興会事務局長。

高校卒業後、建築家を目指し東京の建築関係の専門学校に入学。卒業後、東京の乗馬クラブに勤務。その後遠野に戻り、乗用馬の繁殖・調教を行う会社に勤めつつ、農林業に携わる。20歳頃から馬搬に興味をもち、2人のベテラン馬方に師事、技術を習得した。2010年、「遠野馬搬振興会」を設立。現在は農林業に従事しながら、馬搬文化と技術の継承、宣伝、普及などを目的として活動している。2011年にイギリスで開催された「馬搬技術コンテスト・シングル部門」で優勝。2012年にはこれまでの活動が認められ、岩手競馬、馬事文化賞受賞。同年、欧州馬搬選手権シングル部門で7位に入賞。

初出日:2013.11.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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