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2013.09.01  取材・文/山下久猛 撮影/守谷美峰

さまざまな活動

──具体的にはどういう活動をしているのですか?

さまざまな活動をしていますが、大きくわけて「モノづくり」「コトづくり」「街づくり」の3本の柱があります。

「モノづくり」はネクスタイドを設立して最初に取り組んだ活動で、いわば我々の出発点です。そもそもマルイというファッションをメインに扱う会社でバイヤーや店長を歴任してきたのでファッションやデザインに関する知識や人脈をつくる技術は豊富にもっていました。それらの武器を使い、世界各国の才能あふれる著名なファッションデザイナーやディレクターに思いを伝えて協力をお願いしたところ「ファッションとデザインの力で従来の福祉の価値観を変えていくというテーマは世界的に見ても非常に新しいアプローチでおもしろい。俺には世界のデザイナーのネットワークはあるから一緒にやろう」と快諾。以降、障害者の視点に立ち、機能的で街に出てきたくなるようなデザインの服、靴、バッグなどのファッションアイテムを世界のデザイナーたちや国内のメーカーとともに開発し、販売してきました。障害者だけではなく健常者にもクールでおしゃれでかっこいいと感じてもらえるようなデザインにしたので多くの若者から好評を得ました。また、障害をもつ人でも着脱しやすいシューズは世界的にも有名な日本の一流プロアスリートにも気に入っていただけました。

ネクスタイドが企画した商品の一部。手先が不自由でも、履きやすく脱ぎやすいシューズや、開けやすく、閉めやすいバッグ・財布。機能性とファッション性を兼ねそろえているのがポイントだ。

視覚障害者でも楽しめる映画を

また、視覚障害者の方でも映画を楽しんでいただこうと映画の音声ガイダンスの制作をプロデュースしています。2010年3月の「時をかける少女」(谷口正晃監督)以来、毎年1作品を目安に音声ガイダンスを制作してきました。(音声ガイダンス入りの映像はこちら

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音声ガイダンス制作風景

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「時をかける少女」の上映後のトークショー

さらに今年(2013年)は新しい試みに挑戦しています。9月7日公開の「共喰い」という映画では、音声ガイダンスなしでも情景がわかるような工夫が施されています。なぜそんなことをするかというと、「音声ガイダンスつき」というとどうしても「視覚障害者のため」というイメージがついてしまいます。しかし障害者と健常者が普通に混ざり合っている社会を実現する上ではその形容詞そのものを排除したい。そこで視覚障害者のみなさんが音声ガイダンスなしでも楽しめる映画製作のあり方を模索して、製作会社のプロデューサーの協力を仰ぎ「共喰い」でそれを実現したというわけです。映画のエンドロールに「ピープルデザイン監修」としてNPOピープルデザイン研究所とネクスタイドが初めて登場しています。

また、僕らの活動に賛同してくれている要潤さんが主演の「劇場版 タイムスクープハンター 安土城 最後の1日」(8月31日公開)では視覚障害者の方々の視点を活かして、映画の内容がより理解できるスマホ用電子書籍アプリを開発することに成功しました。

さまざまなイベントを開催

2つめの柱である「コトづくり」では、さまざまなイベントを開催しています。例えばブラインドサッカーの体験会では、子どもたちがアイマスクをして目の見えない状態でプレイすることで、声をかけ合うことの大切さや、目の不自由な人との接し方を体験できます。子どもの頃から障害者と接する機会を提供することで障害者のいる場が普通なんだという意識をもってもらうためです。18歳で失明したブラインドサッカー日本代表の加藤健人選手や有名スポーツ解説者などを講師に招いて渋谷と川崎で4年前から行っており、企業研修としても採用されています。

ブラインドサッカー体験会

ほかにも聴覚障害の方にライブを「聴いて」楽しんでもらうイベントなどを企画・開催していますが、このようなイベントを行うことで、障害をもつ人びとが街に出てきて、健常者と障害者が混ざり合う場をコツコツ増やして、それが常態化した社会を目指しているんです。

渋谷という街そのものを媒体に

こんな感じで10年間活動を継続する過程で、たくさんのアイテムを世に送り出し、イベントで混ざり合う場をつくるという手法のインフラは整いました。しかしこれまでと同じ事をしていたのではなかなか社会を大きく変えることができないので、これまで取ってきた手法よりも、より社会にインパクトをもたらす影響力のある方法はないかなとここ数年ずっと考えてきました。

そんなとき、僕が出演したテレビ番組、「地球ドキュメントミッション--ファションの力でめざす 心のバリアフリー」(NHK BS1、2011年1月30日放送)を見た人から一度お会いしたいという連絡をいただきました。その人は長谷部健さんという渋谷区の区議で、彼もまたグリーンバードという街の美化を目的とするNPOを立ち上げるなど社会的な活動をしている人でした。彼の話は、社会的な課題解決を同情や善意に頼るのではなく、ファッション、デザイン、エンタメ、スポーツというわくわくするコンテンツで解決していくネクスタイドという活動、そして人びとに行動を喚起させるピープルデザインという思想が非常におもしろいから渋谷区の区政に取り入れられないかというものでした。

僕自身も学生の頃から渋谷が遊び場で、サラリーマン時代も入社2年半で渋谷店に着任し、最後の職場も渋谷店。現在の事務所も渋谷にあります。このように渋谷という街とは縁が深く、言ってみれば僕のホームタウンなわけです。だから、長谷部さんからこういう話を聞いたときはとてもうれしく、ぜひ取り組んでみたいと思ったんです。

それで、渋谷という街そのものを媒体にマイノリティとマジョリティが混ざり合うダイバーシティを実現していく。その手段としてピープルデザインという思想を持ち込む。すなわちマイノリティ目線で街を見渡して、彼らが困っている課題・問題を見つけたとき、それを建物などのハードウェアだけで解決するのではなく、街にいる人々のちょっとした配慮や思いやりの一声、お手伝いしましょうかといった具体的な行動で解決していこうということを、今度は渋谷という街を媒体に展開していきたい。そういう思いから昨年(2012年)、「ピープルデザイン研究所」というNPOを立ち上げました。

ピープルデザイン研究所は渋谷がきっかけで生まれましたが、その活動範囲は渋谷だけに限定するものではありません。まずは渋谷をホームグラウンドとして渋谷の価値を上げていく。それをロールモデルとして全国、全世界に広げていくことを目指しています。

つまりこれまでは活動の主軸をファッション・デザイン・イベントなどの「モノづくり」「コトづくり」に置いていたのを、これからは「都市の価値づくり」に大きくシフトいくということです。もちろんファッションを主軸としたモノづくりにも今後も継続して関わっていきますが、後継者が育ってきているので、ファッション関連は若手に移行しています。

須藤シンジ(すどう しんじ)
1963年、東京都生まれ。有限会社フジヤマストア/ネクスタイド・エヴォリューション代表、NPO法人ピープルデザイン研究所代表理事。

大学卒業後マルイに入社。販売、債権回収、バイヤー、宣伝、副店長など、さまざまな職務を経験。次男が脳性まひで出生したことにより、37歳のとき14年間勤務したマルイを退職。2000年、マーケティングのコンサルティングを主たる業務とする有限会社フジヤマストアを設立。2002年、「意識のバリアフリー」を旗印に、ファッションを通して障害者と健常者が自然と混ざり合う社会の実現を目指し、ソーシャルプロジェクト、ネクスタイド ・エヴォリューションを設立。以降、「ピープルデザイン」という新しい思想で、障害の有無を問わずハイセンスに着こなせるアイテムや多業種の商品開発、各種イベントをプロデュース。2012年にはダイバーシティの実現を目指すNPOピープルデザイン研究所を創設し、代表理事に就任。

初出日:2013.09.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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