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2013.07.15  取材・文/山下久猛 撮影/村上宗一郎

リアルな「まち」をつくるプロジェクト

──プロジェクトの中で今最も力を入れているのは?

リトルトーキョー」のページ

リトルトーキョー」ですね。ひとことで言うと、東京の真ん中に新しい、リアルな「まち」をつくるプロジェクトです。この場所では自由に仕事と関わることができます。生活の糧を得るための仕事は必要ですが、それ以外の余った時間は何をやってもいいはずですよね。そんなときにみんなが自由に仕事ができるような場所をつくれたらいいなと思って始めました。

いくつか実際に空き地や物件を借りて「まち」として、その中にカフェやイベントスペース、パブ、オフィス、映画館などをつくろうと考えています。そして、リトルトーキョーの市民になるとそこで仕事を提供することができます。例えばヨガが得意な人ならヨガ教室を開いてもいいし、旅好きな人なら旅のドキュメンタリー映画をつくって映画館で上映してもいい。イベントを開催してもいいし、何にもとらわれる必要はないので、本当に自由に発想して仕事をつくってもらえばいいんですよ。


──すごく楽しそうですね。具体的にはどうやって「まち」として運営してくのですか?

運営費は「税金」という名目で市民から集めて、各活動に充てようと思っています。政治システムは直接民主制を採用するので、その予算を市民全員で審議して決めます。例えば新聞社をやりたい人は、そのために必要な予算額を議案として提出してもらい、それが可決されれば新聞をつくることができます。その過程は100%オープンにするんです。投票はその場に来れなくてもインターネットでもできるようにして、いろんなプロジェクトが生まれていけばおもしろいなと。

さらにそのプロジェクトの履歴をネット上に残して、その人が関わったプロジェクトの一覧がすぐにわかるようにしようと思っています。そうするとその人がどんな職能をもっているかすぐにわかるし、履歴書にリトルトーキョーで手がけた活動を書くことで現実世界での就職・転職につながるかもしれません。現在では、新しい事業を起ち上げたいときの資金集めの方法もクラウドファウンディングなどいろいろありますが、通常は事業コンセプトとその人の思いみたいなことしか基本的にプレゼンできません。でも、もしリトルトーキョーで行った活動をアピールすることができれば、投資する側もその人のスタンスや能力などいろいろなことがわかると思うんですよね。

こういうふうに、仮想の「まち」を作ってそこで遊ぶように働くことを通して、結果として現実世界の仕事にいい影響を与えるような場所にできればいいなと思っているんです。

「リトルトーキョー」誕生秘話

──そもそもなぜ「リトルトーキョー」をやろうと思ったのですか?

まず根本としてあるのが、僕は独立するにあたって生き生きと働く人を増やすために人と場をつなげることを最初に仕事にしましたが、僕自身が当事者として場をつくりたいという思いです。それはやっぱりずっと強くもっていたわけです。

「リトルトーキョー」をつくろうと思った直接のきっかけはドイツの「ミニ・ミュンヘン」です。夏にミュンヘンに子どもたちが集まって3週間限定の町をつくり、子どもだけで自治を行うんです。選挙もあるし、ハローワークみたいなところで仕事を得たり、なければ自分でなんでも起業していいんです。ある子どもはおもちゃの車でタクシードライバーになったり、大工になったり。通貨もあって自分の仕事に対する報酬はきちんともらいます。

それってはたと考えると立派な「仕事」なわけですよ。しかもみんなすごく楽しそうにやってる。仕事は生活するために必要でもあるし、現実的に考えなきゃいけない部分もあるものの、一方ではそういう子どもたちみたいな状況に置かれたら、大人も遊ぶように働くことはできるんじゃないかと思っていて。それで東京にもそういう場をつくろうと思ったわけです。


──「リトルトーキョー」の具体的な場所は決まっているのですか?

今年(2013年)の5月末に虎ノ門にあるビルの数フロアとその隣の空き地とお鮨屋さんだった物件を借りました。これからつくるところです。ちなみにシゴトヒトのオフィスもこのビルに引っ越しました。(※編集部注:このインタビューは引越し当日に行われた)

オフィスの入るビルの隣の鮨店。ほぼ手付かずの状態

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引っ越したばかりのオフィス

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オフィスビルと鮨店の間の空き地。ここから最初の「リトルトーキョー」が生まれる

これから市民が増えて納税額も増え、もっと物件や土地を借りるべきだという結論に達したらどんどん借りて場所を増やしていけばいい。また、東京だけじゃなくて田舎の空き地に「リトルトーキョー」の小屋を建てて、市民が共有できるみたいなものもあってもおもしろいと思っています。

7月に正式オープン

──秘密基地がどんどん増えるみたいな感じで想像すると楽しいですよね。現在はどんな状況なのですか?

まずは3月半ばから4月頭にかけて一緒にこれからリトルトーキョーを作っていけるような「開拓者」を募集したところ、応募者が殺到し、すぐに1000人を越えたので今はストップしています。

4月8日にキックオフイベントとしてヒカリエで第一回市議会を開催して、市をつくることを宣言したり、こういう場所ですというのをお披露目しました。全国から人が集まり、かなり盛り上がったんですよ。

新しく借りた物件はまだ手付かずの状態だったので、6月8日に約30人の開拓者のみなさんと一緒に掃除をしました。新しい街をつくるところから一緒に始めたわけです。こちらも最初のイベントとあってかなり盛り上がったんですよ。

リトルトーキョーの掃除の模様と集まった開拓民のみなさん

そして今月(7月)いよいよ正式にオープンとなります。最初から完成させるのではなく、実際に運営しながら状況の変化に合わせて少しずつ変えていくような場作りをしようと思っています。その方がおもしろいし居心地がいい気がするので。


──市民にはどんな人が多いのですか?

20~30代の若手会社員が多いですね。学生は1~2割といったところでしょうか。

居心地のいい場所が何よりの幸せ

──中村さんにとって「場をつくる」ということがすごく大事なんですね。

その通りです。それがいろんなかたちでプロジェクト化していったという感じですね。

僕にとって一番幸せを感じるのは、仲のいい友達・家族などと一緒に楽しく飲んだり話したり暮らしたりする状況なんです。人と人のつながりが何よりの財産だと思っていて、そのために一番必要なのはお金などではなく、居心地のいい場所。それがあれば十分満足なんです。

冒頭でも話したとおり、僕には地元と呼べる場所がないのですが、これからどんどん地元がない人が増えていくと思うんです。これから多くの人たちが希求するのはお金でもないし、究極的には仕事でもない。居心地のいい自分たちのコミュニティだと思います。だから多くの人にとって居心地のいい場所をつくるために、東京の中に地元、あるいはコミュニティをつくりたいんですよね。


──それが中村さんを突き動かす原動力なんですね。

そうですね。そういう人たちに喜んでもらえるような場所をつくるにはどうすればいいかということを考えています。

中村健太(なかむら けんた)
1979年東京都生まれ。株式会社シゴトヒト代表。

明治大学大学院理工学研究科建築学専攻を卒業後、不動産会社ザイマックスに就職。不良債権処理、大型複合商業施設の開発・運営などを経験後、2007年28歳のときに退職。2008年8月、生きるように働く人のための求人サイト「東京仕事百貨」(現「日本仕事百貨」)をオープン。「自分ごと」「隣人を大切にする」「贈り物」な仕事を、全国各地で取材し紹介している。2009年10月1日株式会社「シゴトヒト」設立。現在はまちおこしなどのディレクター、東京に町をつくる「リトルトーキョー」など各種プロジェクトやメディアのプランナー、キャリア教育などに関わり、「シブヤ大学しごと課」ディレクターや「みちのく仕事」編集長も務めている。

初出日:2013.07.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの