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2013.06.15  取材・文/山下久猛 撮影/村上宗一郎

ブレーキをかけることが大事

──働き方に関して心がけていることはありますか?

私は仕事についついのめり込んで倒れてしまうまでやってしまうタイプで、これまでは忙しい時は2カ月休みなしになることもありましたが、それがたたって去年は実際に倒れてしまったんです。

それを教訓に、仕事に精一杯打ち込んでも、今日はもう疲れているな、集中できていないなと感じたら、その時点で切り上げて明日に回すというふうに、体を壊さないギリギリ一歩手前で止めるように心がけています。休みなしで働いてもいいアウトプットに繋がらないので。やっぱり健康が一番大事ですし、いい仕事をしたかったら健康でいないといけないと思いますね。

個が活躍する時代に

──今後の世の中の働き方はどうなると思いますか?

元大企業の社員で現在独立して細々と会社を運営していますが、大企業が今後これ以上巨大化していく時代は終わったと思います。むしろ小さく、分裂していく方向で、身軽になってくっついたり離れたりが自由にできるフレキシブルな組織形態になるのではないかと思っています。


──これから大きな組織を出て個人事業主とか小規模な組織形態を作って生きていく人が増えるということでしょうか。

そうですね。ですからそういった個や小さい組織がもっと仕事をしやすい環境になるといいなと思います。今は大きな看板や後ろ盾がないと大きな企業とは仕事がしにくいのですが、これからはその辺があんまり関係なくなってくると思うんですね。規模は小さくても信用・信頼で大手と仕事ができるという世の中になっていくと思うので、そういう意味でも個や小さな組織が増えると思います。むしろそちらの方が大企業も効率がいいことに気づくと思うんですけどね。


──玉井さんご自身の働き方に関しては今後変えていきたいと思っていることはありますか?

今の働き方に不満はないしこだわりも全然ないし、状況に合わせていくらでも変えられるので、こうしなきゃいけないとか、こうしたいというのはありません。でも人は人生のステージによって考え方やなすべきことががらっと変わるので、そのステージに上がったときに自分も変わっていくだろうとは思っています。

道なき道をゆく

──今後の夢・目標は?

先にもお話しましたが、ひとことでいえばCMFデザインの市場をきちっと確立して、日本のモノづくりを活性化することです。CMFが世の中で当たり前になって、CMFをやればモノづくりが盛り上がるねとみんなが取り組み始めることによって、今まで低迷していた日本のモノづくりにも新しい市場ができる。また、CMFの普及によって日本発の素材が世界中で売れるようになる。そういったことが私の夢です。


──その手応えは感じていますか?

独立してCMFの市場をゼロから作り始めて、それに丸6年費やしていますが、全然まだまだです。これまでを振り返ると、まるで何もない草むらをかきわけて道を作ってきたような感覚で、その作業はとても困難でたいへんですが、一方で「今、私かきわけてるな」という感じが醍醐味ですし、少し道ができたなと感じたときはものすごくうれしいです。


──高村光太郎の誌「道程」の中の一節「僕の前に道はなく、僕の後ろに道はできる」を彷彿とさせる生き様ですね。現在取り組んでいる新しい事業はあったりするのですか?

アメリカのNYに本社がある、革新的な素材を世界中から収集、ライブラリー化している会社、Material ConneXionとライセンス契約をして、今年10月には東京に素材ライブラリーをオープンさせます。世界中の新しくて優れた素材を日本でも使えるようにするためです。Material ConneXion Tokyoは日本写真印刷株式会社と株式会社FEEL GOOD creationが共同で運営します。

今後も日本のモノづくりの復権に寄与できるよう、もっと頑張って新しい道を作っていきたいと思っています。

玉井美由紀(たまい みゆき)
1968年千葉県生まれ。株式会社FEEL GOOD creation 代表取締役/CMFデザイナー/CMFクリエイティブディレクター

武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科卒業、 株式会社本田技術研究所へ入社。四輪デザイン室でデザイナーとして数々の車のカラーマテリアル開発に携わる。S-MXで第1回オート・カラー・アワォードのファッションカラー賞受賞、シビックシリーズで第8回オート・カラー・アワォードの技術賞を受賞。2007年、プロダクトの表面材専門のデザイン事務所「FEEL GOOD creation」設立。日本ではほとんど知られていないCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)を日本で広め、日本のモノづくりを活性化させるため奮闘中。

初出日:2013.06.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの