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2013.05.15  取材・文/山下久猛 撮影/村上宗一郎

重要なのは求心力と遠心力

──とはいえ利益がなかったらハッピーにもなれませんよね。

もちろん稼ぐことも重要です。適切な利益を上げていくことと、自由でハッピーな働き方ができるというそのバランスをうまく取るのは確かに難しいですが今のところはギリギリ取れています。そのバランスが崩れないように気をつけることが一番難しい点ですね。

重要なのは求心力と遠心力ですよね。プロ野球のチームみたいに、一人ひとりみんな契約はバラバラで個人の契約がよくないと年俸も上がらない。だけどチームとして勝たないと個人も幸せにならない。だからみんなでチームとしての勝利を目指そうぜとなるんですが、基本的には個人の集まりなのでプレイヤーとしての才能をどう活かすか、そのバランスをどこで取るのか。すばらしいスポーツチームのような組織を作らないといけないのかもしれないですが、それがなかなか難しいんです。


──フリーエージェント・スタイルのデメリットや問題点は?

仲介のメンバーは自由はあるといっても契約を決められなければ収入はゼロなので、楽しいだけじゃなくて苦しさや大変さはすごくあると思います。プレッシャーもかなり重いでしょうし。

個人で売り上げの目標は立てますが、あまりにも達成度が低い人には、僕ら3人のディレクターが「さすがにどうにかしないとまずいんじゃないの?」と口を出すこともあります。でもそもそもが独立した個人ですから、結局は契約が取れなければ困るのは自分。契約がゼロ=収入がゼロというその苦しさやプレッシャーに耐えられなくて辞めていく人ももちろんいます。

でも一度サラリーマンになっても、やっぱりこの働き方がいいといって戻ってくる人もいます。ゆっくりとした振幅の中でその人なりに自分に合う働き方を選択していくんでしょうね。

とはいえ、ここが僕らの課題で、全部サムライ契約でいいとも思ってないんですよね。最近初めて新卒を東京R不動産に入れたのですが、いきなりサムライ契約では厳しすぎるので、いったんOpen Aの社員にしてある程度の給料は保障した上で、仲介業務をやるとか、働き方のバリエーションは日々試行錯誤です。どうすればハッピーでみんなの空気が悪くならないか、そこに腐心しています。

もうひとつの課題は、全体としての成長のスピードが遅いことです。普通の企業のようにビシっと組織化して利益追求型にしていないので当然といえば当然ですが、一方で不景気に左右されることもありません。リーマンショックのときは不動産業界はひどいダメージを受けて潰れる会社もたくさんあったのですが、東京R不動産は何の影響もなかったですね。影響がなさすぎて、おれたち、ちゃんと経済に関わっているのかと逆に不安になりました(笑)。

最初からじわーっと低成長を続けているので、不景気に強いともいえますが、好景気の恩恵にも預かれないということかもしれませんね。この辺はいいのか悪いのかわからないです(笑)。

こんな感じで全面的にハッピーとは言えないかもしれないけど、最適解を追求している感覚があって、それも働き方のデザインだと思っています。

サムライの集まりでも"わきあいあい"

── 一匹狼の集まりだと自分の利益の確保が最優先になって殺伐とした雰囲気になったりはしないんですか?

サムライ契約になると一見、みんな金至上主義になると思うけどそうではありません。中には契約がなかなか決まらない難しい物件ばかり扱っているから収入がなかなか増えないメンバーもいます。それは言い替えれば、自分の好きな仕事しかしない、我が道をゆくという自由も保障されているということでもあるんです。

また、ディレクターとしても気を遣いながら、雰囲気が悪くならない工夫をしてます。例えば1件の物件の契約を決めるのに複数のメンバーが関わった場合も、ビジネスコンサルティングにいた林がきちっと業務ごとにギャラを決めたフォーマットに従って極めて客観的な目で評価するので公平感と納得感が高く、ギスギスした雰囲気にはなっていません。この「フェアネス」、公平性も僕らのチームで最も大事にしているポリシーのひとつです。

だからむしろ普通の会社よりも雰囲気はいいと思いますね。バレー部やフットサル部もあるし、マラソンもみんな一緒に走ったり、バーベキューをやったり、わきあいあいとやってますよ。今年は全体としての売り上げ目標を達成できたお祝いでみんなでハワイに行っていましたしね。

とはいえとても安定しているとはいえない状況なのでドキドキはしています。でも基本的にはサムライ契約に耐えられる人たちが集まっているし、先程も触れましたが、僕らは利益よりもハッピーに働けることを重視していて、その考えに賛同して集まっている人たちなのでそもそもお金にそれほど執着がないんです。だからうまくやっていけているのだと思います。

公私共に仲のよい東京R不動産のメンバー

馬場正尊(ばば まさたか)
1968年佐賀県生まれ。建築家/Open A ltd.代表取締役/東京R不動産ディレクター

早稲田大学理工学部建築学科卒業後、博報堂へ入社。博覧会やショールームの企画等に従事。その後早稲田大学大学院博士課程へ復学、建築とサブカルチャーをつなぐ雑誌『A』編集長を務める。2003年、建築設計事務所Open Aを設立。個人住宅の設計から商業施設のリノベーション・コンバージョン、都市計画まで幅広く手がける。東京R不動産では編集・制作面を担当し月間300万PVの人気サイトに育て上げる。東北芸術工科大学准教授を務めるほか、イベント・セミナー講師など多方面で活躍。『だから、僕らはこの働き方を選んだ 東京R不動産のフリーエージェント・スタイル』(ダイヤモンド社)、『都市をリノベーション』(NTT出版)、『団地に住もう! 東京R不動産』(日経BP社)、『「新しい郊外」の家』(太田出版)、など著書多数

初出日:2013.05.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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