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2013.05.15  取材・文/山下久猛 撮影/村上宗一郎

フリーエージェント・スタイルという働き方

──東京R不動産といえば「フリーエージェント・スタイル」という働き方で注目を浴びていますが、具体的にはどんな働き方なんですか?

東京R不動産は会社ではなく、あくまでもメディアなので、「東京R不動産の社員」は存在しません。魅力的・個性的な賃貸・売買物件を見つけてきて、借りたい・買いたい人との契約までこぎつける仲介営業職は、ほぼ全員個人事業主です。彼らはスピークと業務委託契約を交わしています。

彼らの収入は完全歩合制なので、例えば数千万から億単位の売買物件を決めたらその分手にする収入も多くなりますが、一件も決められなければ収入はゼロです。この契約形態を僕らは「サムライ契約」と呼んでいます。

このサムライ契約を交わしているメンバーは10人ほどで、あとはプログラマーなどがいますが彼らは固定給です。


──関わっている人は何人くらいいるんですか?

40人ほどだと思います。営業メンバー以外にも、個人事業主のデザイナーなど多数います。そのさまざまな個人が集まってひとつのチームとして機能しているのが東京R不動産です。


──フリーエージェント・スタイルを取り入れた経緯は?

東京R不動産を始めたときからこのスタイルなので、特にこれといった理由はありません。みんながハッピーになるためにはこれしかなかったという感じですね。一番自然だったんでしょうね。

会社員とフリーランスのいいとこどり

──フリーエージェント・スタイルのメリットは?

例えばTSUTAYAなどの大企業とのコラボ企画は個人ではまず無理ですよね。でも能力のある人たちと組めばそのような社会に対してより大きなインパクトを与えられる仕事ができる。チームじゃないと組めない相手とスケールの大きな仕事ができることがメリットです。

一方で、立場的にはあくまでも個人ですので、フリーランス的な自由さもあります。例えば思い立ったときに今日から1カ月休むということもできます。またもちろん東京R不動産以外の仕事もできるし、むしろ兼業を奨励しています。

だからこの働き方は会社員とフリーランスのいいとこ取りの働き方だと思っているんです。


──どうして兼業を奨励しているんですか?

その方がハッピーだからです。まず核となる仕事をもって、空き時間に別の仕事をすればその分だけ収入も増えるし、リスクヘッジにもなりますよね。

また、メンバーの中には担当する業務の他にも新しい事業を始めたいという人もけっこういて、彼らのチャレンジを阻害したくはないんです。そもそも東京R不動産を始めた僕ら3人がそういう人間だし、実際に経験もしているので、新しいことを始めたいという人にいろいろアドバイスもできるし、協力もできます。

例えば、東京R不動産の中から「密買東京」という物販サイトを新しく始めたいというメンバーが3人出てきました。でも僕を含め3人のディレクターは成功させるのは難しいんじゃないかと思ったのですが、その3人はこれをやらないと東京R不動産の仲介業務にも熱が入らないと言うので、じゃあやってみれば、という感じでスタートしました。

その代わり会社を立ち上げたら東京R不動産グループから出資するという資本関係はちゃんとあります。他にも東京R不動産が出資するという形で新しく生まれた会社や事業は複数あり、それらを支援したりアドバイスしたりしているんです。


──そんなに新しい会社や事業が生まれたらハンドリングするのがたいへんですね。

確かにそうですが、メリットもあります。例えばツールボックスはTSUTAYAと一緒にいろいろなプロジェクトを進めているのですが、それは東京R不動産という枠の中でやってたら実現できなかったわけです。そうやって東京R不動産というひとつの場所からいろんな事業が生まれて、アメーバのように仕事の触手が伸びていくことによって、常に新しい情報や人材や空気が入ってくる。そういう感覚は、僕らにとっては退屈しないしハッピーなんですよね。もちろん東京R不動産にとってもいいことで、総合的な力を強めることに繋がると信じてもいますしね。

「HOUSE VISION 2013 TOKYO EXHIBITION」で東京R不動産と蔦屋書店がコラボして提案した「編集する家」(photo:©Daici Ano)

根底にあるのは、東京R不動産というメディアを大きくして利益を増やしていきたいということではなく、働いているメンバー一人ひとりが幸せを追求できるチームでありたいという思いです。これが最も重要なことで、フリーエージェント・スタイル含め、すべてはこの思いから生まれているんです。

馬場正尊(ばば まさたか)
1968年佐賀県生まれ。建築家/Open A ltd.代表取締役/東京R不動産ディレクター

早稲田大学理工学部建築学科卒業後、博報堂へ入社。博覧会やショールームの企画等に従事。その後早稲田大学大学院博士課程へ復学、建築とサブカルチャーをつなぐ雑誌『A』編集長を務める。2003年、建築設計事務所Open Aを設立。個人住宅の設計から商業施設のリノベーション・コンバージョン、都市計画まで幅広く手がける。東京R不動産では編集・制作面を担当し月間300万PVの人気サイトに育て上げる。東北芸術工科大学准教授を務めるほか、イベント・セミナー講師など多方面で活躍。『だから、僕らはこの働き方を選んだ 東京R不動産のフリーエージェント・スタイル』(ダイヤモンド社)、『都市をリノベーション』(NTT出版)、『団地に住もう! 東京R不動産』(日経BP社)、『「新しい郊外」の家』(太田出版)、など著書多数

初出日:2013.05.15 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの