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2013.05.01  取材・文/山下久猛 撮影/村上宗一郎

既存の常識を解体して再編集する

──さまざまな仕事の中でメインとなる建築・設計についておうかがいしたいのですが、どんな思いでどんなふうに仕事をしてきたのですか?

根本にあるのは日本の住空間をなんとかしたいという思いです。いろいろな仕事をする中で、たくさんの気づきがあり、問題意識が芽生えて、それらを編集するようにして仕事をしてきました。

まず住宅に関しては、一人ひとりが住む空間を自分たちの気持ちや欲望に素直にちゃんと再構築しようと主張してきました。どういうことかというと、これまでは人口増に対応するために国や自治体、建築業界・不動産業界が大量に団地などの住空間を最大公約数的に建設・供給し、住む側の人びとがそれに合わせていました。しかし成熟社会になり、人口が減っている今は、供給者側の論理で大量生産された空間に合わせるのではなく、もっと一つひとつの家族の形に合った間取りやデザインを選んだ方がいいですよね、ということです。

僕は、一人ひとりの住む人がつい想像力を働かせて自分の空間を自分で作りたくなるようなシステムを用意してあげるという、デザインの再定義をしたいと思ってます。そのために住む人が自分の思い通りに、リーズナブルに空間を改装するための「ツールボックス」というシステムを東京R不動産内に立ち上げました。

問題意識というのは住む場所についても同じで、今までは多くの人が不動産情報誌やネットで予算や通勤時間などの諸条件で選んでいたわけですが、もっといろんな楽しい選択肢、例えば意外な場所に住むという選択肢もあるだろうと。それを提唱する過程で東京R不動産が生まれたともいえます。

だから僕は住宅の既存の常識をいったん解体して再編集・再構築するようなことをやってきたと言えますね。

つまらないオフィスをおもしろく

──働く場所に関してはいかがですか?

かつては仕事と遊びはきっちり分けなければならないという固定観念のもと、均質空間の中に机がビシっと並んでいるオフィスで均質な仕事をすることを求められていた時代がありました。僕らはそういうオフィスで仕事をしていたし、「オフィスなりのモード」みたいなものがあったし、だからこそ仕事と遊びを一緒にすることは許されなかった。

しかし、今、楽しいことやクリエイティブなことを考え、新しい価値を創造し、世界に売っていかなければならない僕らにとって、そういうことは従来のオフィス空間の中では不可能ですよね。つまりむしろ遊びと仕事は一緒にするべきだと思います。

クリエイティブな発想をするためには、クリエイティブな空間が必要で、その空間は従来のオフィスのような空間じゃなくてリビングルームのような空間かもしれないし、とにかく心地良い空間じゃないと伸び伸びとした発想は生まれないだろうと思いますね。だから人びとがどういう空間でどう働くかということに関しても一所懸命考えてきたつもりです。


──その考えのもと、具体的にはどういったオフィスをつくってきたんですか?

例えばある靴メーカーのリノベーションの案件。元々オフィスは青山の狭くて高い物件を借りていて、新作の発表会はこれまた何百万円も払ってイベントスペースを借りて行なっていました。それを全部ひとつにまとめましょうと勝どきの運河沿いの倉庫を改造してオフィス兼ショールームを造ったんです。

「心地いい空間」をベースコンセプトに、オフィスは運河沿いのリビングルームのようなくつろげるデザインにして、通りに面した部分は大きなガラス張りにして前を歩く人びとがたくさんの靴を見ることができるようにしました。元々倉庫なので、定期的に行う新商品発表会にはそこにプレス関係者やバイヤーなども呼べるようになりました。その会社は気持ちのいい靴を作っているんですが、その企業理念を空間自体で体現する新しいタイプのオフィスを造ったわけです。

先ほどお話した住宅の発想とベースは同じで、オフィスでも既存の概念を疑って、新しい常識で働くスペースを考えようということをやってきました。

Open Aがリノベーションを手がけた勝どきの靴メーカーの社屋

──先ほどOpen A自体もリノベーションしたという話がありましたが。

はい。現在のOpen Aの構造は、2軒隣り合わせの小さな建物を借りていて、左側は1階が通りに面したミーティングルームで2階が仕事場、右側は1階がカフェで2階が仕事場です。3階は別の会社とのシェア空間になっています。これはお金がないからタコ足状になってるというのもあるんですが(笑)。

設立当初は1階でみんなでわいわい仕事をしてたんですが、隣の倉庫が空いたので借りて2階をオフィスにして、従来の仕事場をミーティングルームにしたんです。ミーティングルームでもしょっちゅう大勢で打ち合わせをするのですが、町の商店のような設計事務所がおもしろいかなと思って。僕の実家はタバコ屋なのですが、タバコ屋は当然ですが町に開かれているわけです。でもだいたいの設計事務所は奥まった場所にあります。どうして商店は町に開いて設計事務所は奥まってるのかなという疑問があって。都市との接点がある方がよりビビッドに都市の空気が感じられるじゃないかと思ってこんなふうな造りにしてみたんです。

馬場正尊(ばば まさたか)
1968年佐賀県生まれ。建築家/Open A ltd.代表取締役/東京R不動産ディレクター

早稲田大学理工学部建築学科卒業後、博報堂へ入社。博覧会やショールームの企画等に従事。その後早稲田大学大学院博士課程へ復学、建築とサブカルチャーをつなぐ雑誌『A』編集長を務める。2003年、建築設計事務所Open Aを設立。個人住宅の設計から商業施設のリノベーション・コンバージョン、都市計画まで幅広く手がける。東京R不動産では編集・制作面を担当し月間300万PVの人気サイトに育て上げる。東北芸術工科大学准教授を務めるほか、イベント・セミナー講師など多方面で活躍。『だから、僕らはこの働き方を選んだ 東京R不動産のフリーエージェント・スタイル』(ダイヤモンド社)、『都市をリノベーション』(NTT出版)、『団地に住もう! 東京R不動産』(日経BP社)、『「新しい郊外」の家』(太田出版)、など著書多数

初出日:2013.05.01 ※会社名、肩書等はすべて初出時のもの

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